静岡地方裁判所 平成9年(行ウ)24号 判決 1999年2月12日
静岡県浜松市板屋町一一一番地の二
原告
セキスイハイム東海株式会社
右代表者代表取締役
加藤正明
右訴訟代理人弁護士
渡辺昭
静岡県浜松市元目町一二〇番地の一
被告
浜松西税務署長 中野勇
右指定代理人
清野正彦
同
安岡裕明
同
金子甫
同
越智弘
同
鈴木まさ子
同
服部正邦
同
佐藤信吉
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が、原告に対し、平成七年一一月二〇日付でなした平成七年分の地価税にかかる無申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
第二事案の概要
本件は、被告が原告に対し平成七年分の地価税につき無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件処分」という。)をしたところ、原告が、平成七年分の地価税は法定申告期限以前に予納したから申告自体が法定期間内になされなくとも無申告加算税を課すべきでない、原告は被告の税務調査前に自発的に地価税の申告をしたから無申告加算税を課すべきでない等と主張して、本件処分の全部または一部の取消を求めた事案である。
一 争いのない事実等(なお、書証によって、認定した事実については、適宜書証番号を掲記する。)
1 本件処分の経緯
(一) 原告は建築工事業を営む株式会社であるが、被告から平成六年分の地価税の申告書用紙の送付はなかったものの、地価税の申告が必要であると判断し、申告手続を高見功祐税理士に依頼し、同税理士を介して被告から地価税の申告書用紙の交付を受け、平成六年一〇月三一日、原告の保有する土地等の課税価格が一二億八八二六万二〇六八円、地価税の額が八六万四七〇〇円と記載された申告書を被告に提出し、地価税と記載された納付書により平成六年分の地価税八六万四七〇〇円を同日納付した(甲第八号証の一)。
(二) 被告は、原告から提出された平成六年分の地価税の申告書、平成六事業年度(平成六年四月一日から平成七年三月三一日)分の確定申告書及び内部資料等に基づき、原告の平成七年分の地価税の申告の要否等について検討した結果、申告が必要であると判断し、申告が必要と思われる納税者をリストアップした申告書発送等整理簿に原告を記載するとともに、平成七年九月一一日、原告に対し、申告書用紙を送付した(乙第二号証の一、第四号証)。
(三) 原告は高見税理士の指示に従い、被告を通じて国に対し、同年一〇月三一日、平成七年分の地価税と記載のある納付書により一五七万五七〇〇円を支払った。
(四) 被告は、その後平成七年分の地価税の法定申告期限である平成七年一〇月三一日までに申告書の提出のなかった原告を含めた納税者を抽出して無申告者リストを作成し、納税義務の有無、郵便による適法な申告の有無、転出の有無等の事情を個別的に調査把握するものとしていた(乙第二号証の二、第四号証)。
(五) 被告の資産課税担当職員は、平成七年分の地価税の法定申告期限を経過したにもかかわらず、原告から地価税の申告書の提出がなかったため、同年一一月七日午前中に原告の前年の関与税理士であった高見税理士の事務所に連絡したところ、同税理士が不在であったために、その事務員に対し、原告の平成七年分の地価税の申告について同税理士が関与していることを確認した後に、同税理士が同申告書を提出したかについて確認して欲しいと伝えた。これを受けて高見税理士が確認した結果、同税理士が同申告書の提出を失念していたことが判明したため、同税理士は、同日午後に地価税の額を一五七万五七〇〇円と記載した平成七年分の地価税申告書を被告に提出した(甲第八号証の一、二、乙一号証、第二号証の二)。
(六) 被告は、原告に対し、平成七年一一月二〇日付けで、平成七年分の地価税に係る無申告加算税の額を二三万五五〇〇円とする本件処分をなし、その通知書が同月二一日原告に送達された。
2 異議申立及び審査請求
(一) 原告は、本件処分を不服として、平成八年一月二〇日、被告に対し異議申立をしたところ、被告は、同年四月一七日付けで棄却決定をした。
(二) 原告は、同棄却決定を不服として、同年五月七日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は平成九年九月三〇日付けでこれを棄却する旨の裁決をし、同年一〇月三日、同裁決書謄本が原告に送達された。
二 争点
原告は、本件処分が違法である理由として、被告は無申告加算税の算出の基礎となる納付すべき税額の算定を誤った(以下、「争点一」という。)、被告は無申告加算税を課するに際して適用すべき税率を誤った(以下、「争点二」という。)との二点を主張した(本件処分の内その余の点は争わない。)。
1 争点一に係る申告の主張
(一)(1) 原告は平成七年分の地価税と記載のある納付書により、法定申告期限内である平成七年一〇月三一日に一五七万五七〇〇円を納付し、かつ、被告もこれを適法な納付として処理しているが、地価税の納付が適法なものであるならば、同納付額は無申告加算税の算出の基礎となる納付すべき税額から控除されるべきである。その結果、無申告加算税の算出の基礎となる納付すべき税額は零となる。
(2) また、本件処分の根拠となった国税通則法六六条一項、三五条二項一号は法定申告期限後に申告書の提出と同時に納付がなされる場合を前提とした規定であるから、本件のように法定申告期限内にすでに地価税の納付がなされており、申告書のみが法定申告期限後になされた場合には適用されないものと言うべきである。
(3) 原告が平成七年一〇月三一日になした納付が予納に該当するとした場合であっても、附帯税のひとつである延滞税において予納額分について賦課されることがないことからすると、同じく附帯税である無申告加算税(国税通則法二条四号)についても同様に予納額分について賦課されるべきではない。
(4) 所得税の確定申告においては、予定納税額は年間の所得に係る所得税額から控除して申告書に記載するものとされているが(所得税法一二〇条一項七号)、右の控除すべき予定納税額は、国税通則法五九条一項一号に規定されている予納額に該当し、この取扱いは、期限内申告と期限後申告において区別されてはいない。
そして、国税通則法五九条一項一号、二号の予納額については、ともに国税として納付する旨を税務署長に申し出て納付する適法な納付であることを理由として還付請求することができないとされているのであるから、両予納額の法的性格を別異に取り扱うべきではない。
原告が平成七年一〇月三一日になした納付が国税通則法五九条一項二号に規定されている予納額に該当するとすれば、右予納額については、期限後申告であったとしても、納付すべきものとして記載した税額から控除すべきである。
(二) 仮に右主張が認められないとしても、本件申告書によれば、原告が平成七年分の地価税の法定申告期限までに納付すべき税額は七八万八七〇〇円とされ、第二回目の法定納期限(平成八年三月三一日)までに納付すべき税額が七八万七〇〇〇円とされているが、このような場合の無申告加算税の基礎となる税額については、法定申告期限までに納付すべき税額である七八万八七〇〇円とされるべきである。
2 争点二に係る原告の主張
国税通則法六六条三項は、「期限後申告書―(中略)―の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してなされたものでないときは、その申告に基づき第三五条第二項の規定により納付すべき税額に係る第一項の無申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付すべき税額に百分の五の割合を乗じて計算した金額とする」と定めているが、同項にいう「調査」とは、実地あるいは面積調査等外部からこれを認識しうべき具体的な調査を指し、税務官庁内部の調査手続を含まないものと解するべきである。
特に、地価税法二五条一項によると、課税価格が基礎控除の額を超えない限り申告書の提出は不要であるところ、課税価格は常に変動するため、地価税に係る無申告加算税課税価格については実地調査をしなければ、課税価格や申告の要否について決定することができないのであるから、地価税に係る無申告加算税の適否を検討するためには、実地調査を行うことが必要不可欠というべきである。
この点、被告は、前記のとおり、平成七年九月一一日に原告に対して平成七年分の地価税の申告書を送付し、また、同年一一月七日に高見税理士事務所の職員に対し、電話による照会をしたにすぎず、実地調査及び反面調査等を行った事実はない。
また、地価税の算定が専門的でありその作業には相当期間を要することや原告保有の土地の多くが販売用で前年の決算書においてもその変動は把握できないのであるから、被告のなした申告書用紙の送付は、原告において申告が必要な場合に申告書の提出を促す程度の意味しか有しない。
さらに、被告が前年の原告の申告書等の資料に基づいて調査し、原告が平成七年分の地価税の申告をすることが必要と判断したことは、被告の行政サービスの一環にすぎず、被告が原告が法定申告期限内に地価税の申告をしているか否かについて「申告書発送等整理簿」及び「無申告者リスト」に基づき調査したことは被告に課せられている日常の業務にすぎない。
以上によれば、被告は国税通則法六六条三項に規定する「調査」を実施したものとはいえず、原告の平成七年分地価税の期限後申告書の提出は「調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでない」場合に該当するから、原告に課される無申告加算税の額は、当該納付すべき税額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額によるべきである。
第三争点に関する判断
争点に関する当裁判所の判断は、争点に係る原告の主張に対する被告の反論を概ね採用したものである。
以下各争点毎に判断を示す。
一 争点一に係る原告の主張について
1 (一)について
(一) (1)について
国税通則法六六条一項は、次の各号に該当する場合には、当該納税者に対し、当該各号に規定する申告、更正又は決定に基づき第三五条二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に一〇〇分の一五の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する(ただし、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない。)とし、その一号で、期限後申告書の提出又は第二五条(決定)の規定による決定があった場合を規定している。
そして、国税通則法三五条二項は、次の各号に掲げる金額に相当する国税の納税者は、その国税を当該各号に掲げる日までに国に納付しなければならないとし、その一号で、期限後申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額については期限後申告書を提出したときまでに国に納付しなければならないと規定している。
以上によれば、国税通則法六六条一項に規定する「第三五条二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額」とは、期限後申告書に納付すべきものとして記載された税額を意味するものというべきである。
この点、地価税については、その申告書に地価税の額を記載するものとされているところ(地価税法二五条一項二号)、本件においては前記のとおり、原告は、平成七年分の地価税の期限後申告書において、納付すべき税額として一五七万五七〇〇円と記載したものである。
ところで、原告は、平成七年分の地価税と記載のある納付書により、法定申告期限内の平成七年一〇月三一日に一五七万五七〇〇円を納付しているが、右納付については、納付書において平成七年分地価税と指定されていたことから、最近において納付すべき税額の確定することが確実と認められため、平成七年分の地価税の予納として取り扱われ(国税通則法五九条一項二号)、その後、原告が同年一一月七日に期限後の平成七年分の地価税の申告書を提出したことにより、原告の同年分の納付すべき地価税の額が確定したために、右確定税額に右予納額が充当されるに至ったものであって、右納付があったからといって、原告の申告義務が免れると解することはできないし、また、期限後申告書に納付すべきものとして記載される税額が左右されると解することもできない。
そうであれば、原告が平成七年分の地価税と記載のある納付書により、法定納期限内の平成七年一〇月三一日に一五七万五七〇〇円を納付していたとしても、被告が国税通則法六六条一項に規定する「第三五条二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額」を一五七万五七〇〇円であると認めて、右同額を基礎になした本件処分については、違法であるということはできず、原告の主張(1)は採用することができない。
(二) (2)について
国税通則法六六条一項、三五条二項一号が法定申告期限前にすでに地価税として予納がなされている場合をことさら除外していないことは法文上明らかであり、また、法定申告期限前にすでに地価税として納付がなされており、これが予納として取り扱われたとしても、前記のとおり、申告書が提出されていない以上、納付すべき税額が確定せず、また、右納付によって地価税の申告義務が免れるわけでもないから、原告の主張(2)は理由がない。
(三) (3)について
延滞税は国税債務の納付遅延に対する制裁的なものであるのに対し、無申告加算税は適法な期限内申告をしない者に対する行政制裁というべきであり(国税通則法六〇条一項一号、六六条一項一号)、その制度趣旨を異にするものであるから、延滞税が賦課されない扱いとなっているからといって無申告加算税が賦課されるべきでないということはできず、原告の主張(3)は理由がない。
(四) (4)について
予定納税に係る所得税については、その年の六月三〇日の経過により納税義務が成立し、特別の手続を要せずして税額が確定することから(国税通則法一五条二項、三項、同法施行令五条一号)、確定申告書から控除すべきものとされ、また、国税通則法五九条一項一号によって還付請求することができないとされていると解されるが、前記のとおり、地価税については、法定申告期限後の申告書の提出によって初めて税額が確定するものであるから、予定納税にかかる所得税の扱いとは前提が異なる。
また、国税通則法五九条一項一号は、納付すべき税額の確定した国税で、その納期限が到来していないものについて還付請求を許さないとするのに対し、同項二号は、最近において納付すべき税額が確定することが確実であると認められる国税について還付請求を許さないとするものであるから、両号における予納額についてはその法的性格を全く異にするものである。
そうであれば、原告の主張(4)については前提を欠くものといわざるをえないから、採用することができない。
2 (二)について
前記のとおり、地価税については申告書の提出によって国税通則法六六条一項に規定される納付すべき税額が確定されるところ、その申告書には単に「地価税の額」を記載するものとされているのであるから(地価税法二五条一項二号)、右納付すべき税額については地価税の額全額を意味するものと解される。
他方、地価税法二八条については、同法二五条一項二号により納付すべき税額が確定したことを前提として、法定申告期限までに右地価税の額の二分の一に相当する金額、翌年三月三一日までに残額の納付を行うよう納付期限を定めたものにすぎないものと解される。
そうであれば、原告の主張(二)は採用することができない。
二 争点二に係る原告の主張について
1 国税通則法六六条三項は、「期限後申告書―(中略)―の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、―(中略)―当該納付すべき税額に百分の五の割合を乗じて計算した金額とする」と規定しているが、同条項は無申告加算税の制度趣旨が申告秩序を維持し、適正な申告を促すための行政制裁であることにかんがみ、課税庁が手数をかけるまでもなく、納税者が自発的に申告を決意し、修正申告書ないし期限後申告書を提出した場合について、例外的に無申告加算税を軽減したものと解すべきである。
そうであれば、国税通則法六六条三項に規定される「調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」とは、税務職員がその申告に係る国税についての調査に着手して無申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後の調査が進行して納税者がやがて決定に至るべきことを認識した上で期限後申告を決意して期限後申告書を提出したものではない場合を指すものというべきであり、また、右条項の「調査」とは、課税庁が行う申告義務の要否等を認定するに至る一連の判断課程の一切を意味するものであり、課税庁の証拠書類の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法等の法令解釈を経て賦課決定処分に至るまでの思考及び判断を含む包括的な概念を指すものと解すべきである。
これに対し、原告は、同条項の「調査」とは、税務官庁内部の調査手続を含まず、実地あるいは面接調査等外部からこれを認識しうべき具体的な調査を指すものであると主張し、特に、地価税に係る無申告加算税の適否を決定するためには、実地調査を行っていることが必要不可欠であり、被告が前年の原告の申告書等の資料に基づいて調査し、原告が平成七年分の地価税の申告をすることが必要と判断したことは、被告の行政サービスの一環にすぎず、被告が原告が法定申告期限内に地価税の申告をしているか否かについて「申告書発送等整理簿」及び「無申告者リスト」に基づき調査したことは被告に課せられている日常の業務にすぎず、また、高見税理士への前記架電についても、申告書提出の有無の単なる照会にすぎず、国税通則法六六条三項に規定する「調査」には該当しないと主張した。しかしながら、このように限定的に解釈、運用することは、右のとおりの国税通則法六六条三項の趣旨に沿うものとは言い難く、また、無申告加算税が軽減される場合を不当に拡大するものであるから相当とはいえない。
2 なるほど、調査をそのように包括的な概念と解するときは、先の国税通則法六六条三項に規定される「調査があったことにより」云々「予知して」との因果関係が否定される場合も想定されないではないが、本件においては、前記のとおり、被告は、原告から提出された平成六年分の地価税の申告書、平成六事業年度分の確定申告書及び内部資料等に基づき、原告の平成七年分の地価税の申告の要否等について検討した上、その後平成七年分の地価税の法定申告期限である平成七年一〇月三一日までに申告書の提出のなかった納税者を抽出して無申告者リストを作成し、納税義務の有無、郵便による適法な申告の有無、転出の有無等の事情を個別的に調査把握するものとして、原告をこれに登載したに止まらず、このリストに従って順次具体的な調査が進められていた事実が認められるものであり(乙二号証。しかも、原告は地価税として納付すべき税額があることを認めて予納をしていた。)、また、被告の資産課税担当職員は、法定申告期限を経過したにもかかわらず、原告から平成七年分の地価税の申告書の提出がなかったため、同年一一月七日の午前中に原告の前年の関与税理士であった高見税理士の事務所に連絡したところ、同税理士が不在であったために、その事務員に対し、原告の平成七年分の地価税の申告について同税理士が関与していることを確認した後に、同税理士が同申告書を提出したかについて確認して欲しいと伝えたことから、同税理士が同申告書を提出したというのである。
そうであれば、被告において、税務職員が申告に係る国税についての調査に着手して無申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後の調査が進行したことから、原告がやがて決定に至るべきことを認識した上で期限後申告を決意して期限後申告書を提出したものと判断してなした本件処分については相当というべきであり、違法であるということはできない。
三 以上のとおり、原告の本件処分に関する違法の主張はいずれも理由がなく採用することができない。
第四結論
よって、本件請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 曽我大三郎 裁判官 絹川泰毅 裁判官 杉本宏之)